医師の育児休業取得の現状
育児休業(育休)は、子どもが原則1歳(最長2歳)になるまで取得できる法的な権利です。しかし、医師の育休取得率は一般企業と比較して低い水準にとどまっているのが実情です。本記事では、医師の育休取得の現状、取得のための具体的な準備、そして復帰後のキャリアプランについて解説します。
育休取得率の男女差
厚生労働省の雇用均等基本調査によれば、女性の育休取得率は全産業で約80%を超える水準ですが、男性の取得率は上昇傾向にあるものの約30%程度にとどまっています。医療業界に限って見ると、この格差はさらに大きくなる傾向があります。
女性医師の育休取得率は比較的高いとされていますが、取得期間は一般的な女性労働者と比べて短い傾向があります。これは、長期間の離職がキャリアに与える影響への不安や、代替要員確保の困難さが背景にあると考えられます。
男性医師の育休取得率は、一般男性労働者よりもさらに低いとされています。日本医師会の調査などでは、男性医師の育休取得率は約10%未満という報告もあり、取得しても数日から2週間程度の短期間にとどまるケースが多いようです。
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取得できる期間:原則として子が1歳に達するまで。保育所に入所できない等の事情がある場合は最長2歳まで延長可能です。2022年10月からは「産後パパ育休(出生時育児休業)」制度も創設され、子の出生後8週間以内に最大4週間の育休を取得できるようになりました。
給付金:育児休業給付金として、休業開始から180日間は賃金の約67%、それ以降は約50%が雇用保険から支給されます(上限額あり)。社会保険料も免除されるため、実質的な手取りの減少は一般に想像されるほど大きくない場合もあります。
分割取得:2022年の法改正により、育休は2回まで分割して取得できるようになりました。これにより、パートナーと交代で育休を取得するなど、柔軟な育休プランが可能になっています。
医師が育休を取りにくい構造的な理由
法律上の権利はあっても、医師が育休を取得しにくい背景には、いくつかの構造的な要因があります。
慢性的な人手不足
多くの医療機関では、ギリギリの人員で診療を回しています。一人の医師が育休を取ると、残りのメンバーの負担が増加するため、「自分が休むと周囲に迷惑がかかる」という意識が育休取得を躊躇させる大きな要因となっています。
代替要員の確保困難
医師は高度な専門性を持つ職種であり、一時的な代替要員の確保が容易ではありません。特に、専門性の高い診療科や、地方の医療機関では、代替医師の確保が極めて困難な場合があります。
キャリアへの不安
特に男性医師の場合、育休取得が昇進やキャリア形成にマイナスの影響を与えるのではないかという不安が根強くあります。医局人事に影響する可能性や、専門医取得に必要な症例数・研修期間への影響を懸念する声もあります。
職場の雰囲気・前例の少なさ
育休を取得した前例が少ない職場では、「自分が最初に取得するのは気が引ける」という心理が働きます。特に、上司や先輩医師が育休を取得していない環境では、取得しにくい雰囲気が醸成されがちです。
育休取得のための具体的な準備
医師が育休を円滑に取得するためには、計画的な準備が重要です。
早めの報告と相談
出産予定日が判明した段階で、上司や人事担当者に育休取得の意向を伝えましょう。早めに相談することで、代替要員の確保や業務の引き継ぎに十分な時間を確保できます。
業務の引き継ぎ計画
担当患者の引き継ぎ、担当業務の一覧作成、各業務の手順書の整備など、後任者がスムーズに業務を継続できるよう準備します。外来患者には事前に担当医交代の旨を説明し、紹介状や診療情報提供書の準備も行いましょう。
育休期間の検討
自身のキャリアプランやパートナーの状況、保育環境などを踏まえて、最適な育休期間を検討します。短期間の育休であっても、取得すること自体に大きな意義があります。
制度の確認
所属する医療機関の就業規則や育休に関する規定を事前に確認しましょう。法定の育休制度に加えて、独自の支援制度(育児短時間勤務、院内保育所、復帰支援プログラムなど)を設けている医療機関もあります。
復帰後のキャリアプラン
育休からの復帰は、新たなキャリアステージの始まりです。復帰後の働き方には、いくつかの選択肢があります。
時短勤務
育児・介護休業法では、3歳未満の子を養育する労働者に対して、短時間勤務制度(1日6時間勤務)を設けることが事業主に義務付けられています。医療機関によっては、外来業務を中心とした時短勤務体制を整備しているところもあります。
非常勤・パート勤務への一時的な切り替え
常勤からいったん非常勤に切り替え、子育てが落ち着いた段階で常勤に復帰するパターンも選択肢の一つです。非常勤であれば、出勤日数や時間帯を柔軟に調整できるメリットがあります。
院内保育所の活用
近年、院内保育所を設置する医療機関が増えています。勤務先に院内保育所がある場合は、積極的に活用を検討しましょう。夜間保育や病児保育に対応している施設もあり、当直やオンコールがある医師にとっては大きな助けとなります。
専門領域の見直し
育休を機に、よりワークライフバランスが取りやすい専門領域や働き方へのシフトを検討する医師もいます。例えば、急性期病院の勤務医から、クリニック勤務や産業医、健診医への転向などが選択肢として挙げられます。
パートナーが共に医師の場合の工夫
医師同士のカップルの場合、育児と仕事の両立には特有の課題があります。両者の当直やオンコールが重なるリスク、キャリア形成のタイミングの調整など、一般的な共働き家庭以上の工夫が必要です。
育休の分割取得・交互取得:パートナーと交互に育休を取得することで、一方が常にキャリアを継続できる体制を作ることができます。2022年の法改正により分割取得が可能になったことで、この戦略はより実行しやすくなりました。
勤務先の選定:育児サポート体制が充実した医療機関を選ぶことも重要です。院内保育所の有無、時短勤務制度の充実度、男性の育休取得実績などを確認した上で、勤務先を検討しましょう。
外部サポートの活用:ベビーシッター、ファミリーサポートセンター、病児保育サービスなど、外部のサポートを積極的に活用することで、緊急時の対応力を高めることができます。
まとめ:育休は医師のキャリアを壊さない
医師の育休取得は、まだ十分に浸透しているとは言い難い状況ですが、法改正や社会意識の変化により、徐々に環境は改善されつつあります。育休を取得したことが長期的なキャリアにマイナスの影響を与えるケースは、適切な準備と計画があれば最小限に抑えることが可能です。
子育ては限られた期間の貴重な経験であり、その経験は医師としての人間性や共感力にも良い影響を与えるでしょう。育休の取得を検討されている方は、制度や支援体制をしっかりと調べた上で、前向きに取り組んでいただければと思います。
参考情報
- 厚生労働省「医師の働き方改革」
- 厚生労働省「賃金構造基本統計調査」
- 厚生労働省「医師・歯科医師・薬剤師統計」
- 日本医師会「日本医師会治験促進センター」
ご注意
- 本記事の情報は 2026年6月 時点のものです。最新の情報は各公式サイトをご確認ください。
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