日本の医師数の現状
日本の医師数は年々増加しています。厚生労働省の「医師・歯科医師・薬剤師統計」によると、2022年時点の届出医師数は約34万人程度とされており、10年前と比較して約3万人以上増加しています。しかし、人口千人あたりの医師数でみると、OECD加盟国の平均を下回っているとされ、先進国の中では依然として低い水準にあります。
さらに重要なのは、医師数の「総数」だけでなく「分布」の問題です。地域間、診療科間の医師偏在が深刻化しており、医師が足りている地域・診療科と、深刻な不足に直面している地域・診療科の格差が広がっています。
地域別の医師偏在
二次医療圏別にみる格差
医師の偏在を把握するために、厚生労働省は二次医療圏ごとの医師偏在指標を算出しています。この指標は、地域の人口構成、患者の流出入、医師の年齢・性別構成などを考慮して算出されるもので、単純な人口あたり医師数よりも実態を反映しているとされています。
都道府県別にみると、東京、京都、徳島、福岡などは医師が比較的多い地域とされる一方、埼玉、茨城、新潟、岩手などは医師が少ない地域に分類されています。しかし、同じ都道府県内でも都市部と郡部で大きな差があり、県庁所在地に医師が集中する傾向が見られます。
へき地・離島の医師確保
特に深刻なのは、へき地や離島における医師確保の問題です。これらの地域では、常勤医師の確保が困難であり、自治医科大学の卒業生の配置や、都道府県のドクターバンク事業、遠隔医療の活用などで対応を図っていますが、根本的な解決には至っていないのが現状です。
診療科別の医師不足
2026年の医師転職市場動向と今後の展望
2026年の医師転職市場は、働き方改革の本格施行や医療DXの進展により、大きな変化を迎えています。本記事では、公開データや業界動向をもとに、医師転職市場の現状と...
続きを読む →産婦人科
産婦人科は、医師不足が長年指摘されてきた診療科の一つです。分娩を扱う施設数は過去20年間で大幅に減少しており、特に地方では分娩施設へのアクセスが困難になっている地域が増えています。訴訟リスクの高さや過酷な労働環境が、若手医師が産婦人科を敬遠する一因とされています。
近年は女性医師の割合が増加していますが、育児との両立の難しさから一時的に現場を離れるケースもあり、実働医師数の確保が課題となっています。
小児科
小児科医の総数は微増傾向にありますが、少子化の影響もあり、地域によっては小児科の入院施設が集約化されています。夜間・休日の小児救急体制の維持が困難な地域もあり、保護者の不安につながっているとされています。
救急科
救急医療を専門とする救急科専門医の数は増加傾向にあるものの、依然として不足が指摘されています。救急医療は24時間365日の対応が求められるため、労働負荷が高く、バーンアウトのリスクも高いとされています。2024年の働き方改革の施行により、救急医の勤務体制の見直しが進められていますが、人材確保とのバランスが課題です。
外科
外科を志望する若手医師の減少が続いています。長時間手術や緊急手術の多さ、訴訟リスク、労働時間の長さなどが敬遠される理由として挙げられます。外科系の医師数が減少すると、手術の待ち時間が長期化したり、地域によっては手術を受けられる施設が限られたりする事態につながる可能性があります。
医師偏在指標とは
厚生労働省が導入した「医師偏在指標」は、地域ごとの医師の充足度を客観的に評価するための指標です。この指標は以下の要素を考慮して算出されています。
医療需要(人口構成、患者の受療率)、医師の供給(医師数、年齢構成、性別構成)、患者の流出入(二次医療圏をまたぐ受診行動)、へき地等の地理的条件などが加味されます。
この指標に基づき、各都道府県は「医師多数区域」「医師少数区域」を設定し、医師少数区域での勤務を促進するための施策を講じることが求められています。2020年度からは、臨床研修病院の定員設定にもこの指標が活用されています。
地域医療構想の影響
2025年を見据えた地域医療構想では、病床機能の分化・連携が推進されています。高度急性期、急性期、回復期、慢性期の4つの機能に病床を再編し、地域全体で効率的な医療提供体制を構築することが目指されています。
この再編に伴い、一部の医療機関では病床数の削減や統合が進んでおり、それに伴う医師の再配置も課題となっています。病床の集約化が進む地域では、特定の病院に医師が集中する一方、周辺の医療機関では医師不足が加速する可能性も指摘されています。
若手医師の都市集中の要因
若手医師が都市部に集中する傾向には、複数の要因が絡み合っています。
専門研修プログラムの集中:多くの専門研修プログラムが都市部の基幹施設を中心に運営されており、後期研修のために都市部に移る医師が多いとされています。
キャリア形成の機会:学会活動、研究機会、先進医療への参加など、キャリアアップの機会が都市部に集中している現状があります。
配偶者の就業:共働き世帯が増加する中、配偶者の就業機会が限られる地方への赴任を避ける傾向があるとされています。
子どもの教育環境:子どもの教育環境を重視し、教育機関が充実した都市部を選択する医師も少なくないとされています。
生活の利便性:文化施設、商業施設、交通インフラなど、生活面の利便性も都市部を選択する要因の一つです。
対策として進んでいること
地域枠の拡充
医学部の入学定員において、卒業後に地域で一定期間勤務することを条件とした「地域枠」が拡充されています。地域枠の卒業生は出身都道府県やへき地での勤務が求められ、地域医療を支える人材として期待されています。
総合診療専門医の養成
2018年から新たな専門医制度が開始され、19番目の基本領域として「総合診療科」が設けられました。地域医療において幅広い疾患に対応できる総合診療医の養成が、医師偏在の解消に寄与することが期待されています。
遠隔医療の普及
オンライン診療やD to D(医師対医師)の遠隔支援など、ICTを活用した医療提供体制の整備が進められています。これにより、医師が物理的にいない地域でも一定水準の医療を提供できる可能性が広がっています。
インセンティブの付与
医師少数区域での勤務に対する経済的インセンティブ(手当の加算、奨学金返済免除など)や、キャリア面でのインセンティブ(管理者要件への組み込みなど)が検討・実施されています。
医師のキャリア支援
各都道府県に設置された医療勤務環境改善支援センターや、大学の地域医療支援センターなどが、医師のキャリア形成を支援しながら地域への定着を促す取り組みを行っています。
今後の見通し
医師の総数は今後も緩やかに増加する見込みですが、人口減少と高齢化の進展に伴い、医療需要の構造も変化していきます。急性期医療から在宅医療・介護との連携へとシフトする中で、求められる医師像も変わっていく可能性があります。
2036年頃には医師の供給と需要が均衡するとの推計もありますが、これは偏在が解消されることを前提としたものであり、対策が不十分な場合は地域や診療科によっては不足が続くことも考えられます。医師不足の解消は、単に医師を増やすだけでなく、適正配置と働き方の改善を含めた総合的なアプローチが求められています。
また、高齢化の進展に伴い在宅医療や慢性期医療のニーズが増大する一方で、人口減少が進む地域では医療需要そのものが縮小するケースも想定されます。こうした地域では、医療機関の再編や機能分化がさらに進み、一人の医師が複数の役割を担う「多機能型」の医師が求められるようになる可能性があります。
医師のキャリアを考えるうえでも、地域や診療科ごとの需給動向を把握しておくことは重要です。医師不足の地域や診療科では、好条件での転職が実現しやすい傾向がある一方、将来的な需給バランスの変化も視野に入れた長期的なキャリア設計が求められるでしょう。
ご注意
- 本記事の情報は 2026年6月 時点のものです。最新の情報は各公式サイトをご確認ください。
- 年収・待遇等の数値は編集部の調査・推計に基づくものであり、実際の条件は個人の経験・実績・勤務先によって異なります。
- 特定のサービスや企業を推奨するものではありません。転職の判断はご自身の責任で行ってください。
- 体験談は個人の経験に基づくものであり、すべての方に同様の結果を保証するものではありません。
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